
12月24日 ― 解放 ―
scene.1
寝台が足許で沈み込む気配を感じて、千里は目を覚ました。
何だろうと目線を足許へ遣ると、寝台の端に忍が座っている。
千里は身体をゆっくり起こした。
その動きに驚いたのか、忍の背中がびくっと揺れた。
まだ少し眠い。手の甲で目を擦りながら、反対の手首に嵌められた時計に目を落とす。
「ああ、もう四時半かー。最近ダメだぁ。夜昼逆転しちゃったよ。まったくもー、君のおかげで社会復帰大変だ」
大きく身体を伸ばしながら、千里は溜息を吐いた。
「…で? どうしたの? ご飯…って訳でもなさそうだし」
何の用事も無く、彼がここにいる訳が無い。
千里は、忍が何か大事な話をしに来たのだと感じ取った。
「そうだな、そろそろ解放してやろうかと思って」
千里の問いに対して忍から返ってきた言葉は、釈放通告だった。
彼の顔を見る限り、どうやら本気の様だ。
しかし千里は、もっと重要な話があるはずだ、と思った。
それでも、もし千里がそれを質さなければ、きっと彼は何も話さないで終わらせるつもりだろう。
そういう彼の態度が、千里には歯痒かった。
「いいの? 出てったその足でオレ、警察に駆け込むかもよ?」
千里がそう言ったのは、もちろん冗談だ。
今更何を騒ぎ立てるつもりも無い。
ただ、彼が少し困った顔でもすれば面白い、と思っただけだった。
彼に対するもやもやした気持ちが言わせた、ほんのささやかな意地悪だ。
「良いよ」
ところが慌てる処か、彼は微笑んでいる。
これには、さすがに千里も動揺した。
忍が笑っているのを見るのは、初めてだ。
しかし、何もこのタイミングでそんな顔をしなくても。
最後の最後に、やられた。
場の制空権を、相手に取られてしまった。
「降参!! このまま解放されてもオレはちっともすっきりしないよ」
わざと大げさにお手上げのポーズを作る。
千里は素直に忍に場を譲る事にした。
「こんなことされてて自分でもどうかと思うけど、どうやらオレは君が気になるらしいよ。ホントに、自分でも呆れるけど!
そうだね…。これまでのいきさつも知りたいし、どうして君がオレをキライって言ったのか、その理由も知りたいし」
率直過ぎる自分の性格を、千里は充分に自覚していた。
思った事は口に出す。
行動に出る。
それは、千里の最大の長所であると同時に、最大の短所でもあった。
それでも千里は決めていた。
物事を曖昧に終わらせないという事。
誤魔化さない事。
それが、鋭い棘を持った現実でも受け容れるという事。
だから、この時も千里は、忍から全てを訊き出さなければいけなかった。
誰の為でなく、自分自身の為に。