
scene.7
洋館からは途中学校を挟んで徒歩七分の場所 喫茶『アナベル=リー』の丁度真裏にある児童公園の前に出た。
「 ? 忍、なんでこんなとこ…?」
千里は導かれるままここまで付いて来たが、よく考えれば自宅へ向かうバス停は屋敷を挟んで逆方向だ。
最も、最終バスはとっくに出た後なのだろうが。
「…ここに迎えが来るから」
児童公園を指差し、忍が言った。
「え!?」
千里は驚き、思わず公園の中を見渡した。
まだ誰もいない。
眠りに落ちつつある、夜の住宅街。
今にも切れそうな児童公園の蛍光灯が、弱々しい明滅を繰り返す。
その暖かみの無い青白い光がちらついて、現実感が遠退いてゆく。
「まだ来てないみたいだな…。でも、すぐ来ると思うから。それじゃ 」
忍は千里を公園に置いたまま、いやにあっさり踵を返した。
「あ、待って!」
千里は、反射的に忍を呼び止めていた。
「…何?」
不思議そうな顔で、彼は振り返った。
「あの…またね! 新学期に、学校で!!」
呼び止めたものの、特に何も用事は無かった。
ただ、とにかく、再会する事を念押しした。
「…。
今日、もう一度千里の演奏が聴けて良かった」
忍が笑って応えた。
けれど、あまりにも細い三日月の明りはひどく頼りなく、彼の顔を曖昧にぼかしてしまった。
「……」
千里が続く言葉を探している内に、忍はその場を去って行ってしまった。
儚く潔い背中が、暗闇の中へ溶けて消えた。
何故だろう。
三学期が来ても、もう彼は自分とは会わない様な気がするのは。
彼の、細い背中を伝う、切なさ。
哀しさ。
行き場の無い想い。
そして、静謐の中にある穏やかな熱情。
その残像が、千里の身体を捲いていた。