
scene.4
店を出る頃には、夜もすっかり更けて、東京では拝めないような満点の星の下、二人で歩いた。
篠舞は、結構酒には強いはずだが、それでも今日はかなり酔っている様だ。
半分踊りだしそうな足取りで、土の道を歩いていた。
「ふふふ、私ね。『風』になるらしいよ」
志月より少し前を歩く彼女が、突然後ろを振り返って言った。
「は?」
どれだけ酔っているのか、と志月は訝ったが、彼女は更に続けた。
「この間アリゾナに行ったんだ。そしてね、ネイティブアメリカンの集落を訪れる機会があったの」
『ネイティブアメリカン』 所謂インディアンの事だ。
「そしたらね、占いなんかしてるおじいちゃんが、『お前は、大いなる空を駆ける風になるだろう』って、私に言ったの。『偉大な古の意志を護る風になるだろう』だって。 何かさ、私、死んで、身体がなくなっても、遺跡から離れないみたい」
どう仕様も無いね、とでも言う様に、篠舞が苦味混じりに微笑んだ。
その笑顔は、何時もの彼女からは想像付かない程、ひどく弱々しく見えた。
淡い月光に照らされた肌が、妙に青白く透けて見える。
「死んで、なんて…縁起悪いからやめろよ」
異国の月の下、消え入りそうな恋人から目を逸らして、低く呟いた。
「そうだね、ごめん」
小さく笑って、篠舞は志月の腕に、自分の腕を絡めてきた。
「相変わらず体温高いなぁ。ふふ、気持ちいい」
彼女の腕は、夜風に当てられて少し冷たくなっていた。
「私…あの時、あんな事言ったけど志月の事、すごいなって、思ってるよ」
突然、至極真面目な声で彼女が呟いた。
「え?」
最も意外な言葉に、志月は思わず立ち止まった。
「すごいよ。 志月は、要求された事は、何でも器用にこなすし、何よりも、何時も周囲の人の事、ちゃんと考えて行動するでしょ?」
冷えた身体とは裏腹に熱い吐息が、絡みつかれた腕を掠める。
「別に、そんな偉い事は考えてないけど 」
「ううん」
篠舞はゆるゆるを振った。
「本当だよ。とても上手に、バランス取ってた。
私はね、『自分はこういう人間だから』って、開き直ってたから。自分にはやりたい事があるから、別に周りに合わせようとしたり、そんな所に煩わされる必要なんて無いんだ、ってね。 それこそ、意固地になって、そう振る舞ってたし…なのに、『そこがいい』って、志月が言ってくれたの、嬉しかったよ。
だから…だからね、私の為に、一パーセントだって我慢したり、諦めたりして欲しくないんだ」
絡めた腕に、力が込もる。
やはり、篠舞は知っているのだ。
あの堅苦しいばかりの家が志月に対して、篠舞との婚約の為に何を条件にしたのか。
「それさえも、私の我侭なのかもね」
「 そんな風に思った事は、一度も無い」
珍しく弱気な彼女に、志月は苦笑した。
「酔っ払っちゃったかな」
篠舞も溜息を吐いて、笑った。