scene.2

 一階の階段横に置かれた電話機の受話器を取り北尾は大きく深呼吸した。
 昼間、顔を合わせた彼の気難しそうな顔を思い出すと、少し緊張した。
 しかし、実際に電話を掛けてみると、彼は至って穏やかに応えてくれた。
「もう少し落ち着いたら、ご自宅まで送らせていただきます」  北尾をは責任上のこともあるので、そう申し出た。
 しかし、相手はその言葉を辞して、むしろ恐縮した様子で詫びの言葉を口にした。
「これ以上ご厄介にはなれませんので、今から迎えに行きます」
 そして、それに重ねて、年少の北尾に対して丁寧な言葉でそう付け加え、電話を切った。
(良かった…特に気を悪くしてる訳では無さそうだ)
 電話を切った後、北尾はほっと胸を撫で下ろした。
 最も、そう気分を害していたとしても、この場でそれを露にする人間はいないであろうが。
「さーとし、お茶でも淹れてあげようか?」と、居間でテレビを見ていた母親が廊下に顔を覗かせた。
「淹れてもらおうかな」
 母親の後に付いて、北尾は居間に入った。
「それで、さっきの子大丈夫?」
 居間の炬燵で湯呑にお茶を注ぎつつ、母親が尋ねた。
「ああ、まだ寝てる。家に電話入れたら、迎えに来るってさ」
 目の前に置かれた湯飲みを手に取り、しばらくその温度を愉しむ。
「ふーん。やっぱり良いおうちの子は大事にされてるわねー。平気で午前様してくるどこぞの息子と大違いだこと」
「どうせ心配してないだろ」
「してるわよぉ! 手が後ろに回る様なことしなきゃいいけど。  って」
 母親は、真顔でそう言った。
「そっちかよ」
「あはは、冗談よ、冗談。でも、千里君がいないのって、珍しいわよね。どうしたの?」
 するっと話題を変えて、今一番痛い話題を振られてしまった。
  学校休んでんだよ、今」
 嘘ではない。
「あら、身体壊してるの?」
 これ以上あまり突っ込まれたくない。
「まあ、そんなとこ…」
 親に嘘を吐くのも躊躇われるし、曖昧に答える事しか出来ない。
 ここは、早々に退散するのが良さそうだ。
「ちょっと、上の様子見てくる」
 湯呑のお茶を飲み干して、北尾は立ち上がった。


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