
scene.3
気怠さを残しつつも身体を起こしてみれば、部屋の中はすっかり暗くなっていた。
枕許の目覚ましを手に取ってみると、夕方の五時を少し回ったばかりだ。
(だるいな…)
それでも帰宅直後の事を思えば、いくらかましにはなっていた。
(そろそろ、夕食の支度しないと )
面倒だな、と思いつつ忍は自室を離れた。
台所のある一階へ向かって階段を降りると、階段横に置かれた電話が鳴り出した。
「はい、もしもし」
名乗らないのは、この電話に掛けてくるのが志月一人だから。
『帰ってたか。着替えたら、すぐにS駅まで出てこい』
それだけ言うと、返事も聞かず切ってしまった。
返事を聞かないのは、こちらに選択権が無いからだ。
「S駅?」
知らない間に、外出していたらしい。
しかも、結構な繁華街にいる様だ。
忍は、電話を切った後すぐに服を着替え始めた。
あまり待たせて、志月の機嫌を損ねたくない。
彼は、支配権を持つ人間の中では比較的良君と言える。
彼自身を怖と感じた事は無い。
それでも
それでも忍は彼を怒らせるのは嫌だった。
この小さな箱庭が、忍の全てだから。
慌しく準備を済ませたところで、千里の夕食の事を思い出した。
(困ったな…。どうしよう)
到底食事の支度などしている暇は無い。
仕方ないので、本当なら今日の昼休みに学校で食べるつもりで買っていたパンを置いておくことにした。
地下室を覗くと、彼はまだ寝息を立てている。
その枕許に数個のパンとお茶の入ったポットを置いて、忍は家を出た。