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委員会決めの一件が原因で、例の嫌がらせをしていたグループから、離反する女子も幾人か出てきていた。
やはりあの様なやり口には、志月と同じ様に反感を持っている生徒もそれなりにいた、という事だ。
気付けば、その中の何人かの女子と、彼女は行動を共にするようになっていた。
そして、三学期 修学旅行に行く頃には、以前の様に露骨な嫌がらせを篠舞が受ける事は無くなっていた。
志月はと言えば、何となく気が合う程度の、付かず離れずの距離を、彼女とは保っていた。
志月にとっては、宏幸と同じくらい気の合う女子などそうはおらず、それなりに仲の良いつもりだった。
しかし、秋の文化祭、二日目の自由時間の事だ。
係の関係で行動を共にする機会が多かった彼女に、自然な流れで一緒に見物に行こう、と声を掛けてみた。
残念ながら、実にあっさり断られてしまったのだ。
その時は特に深い意味があって誘った訳ではなかったが、仲が良いと思っていただけに、やはり断られたのはショックだった。
しかし彼女は、志月だけではなく、あまり学校の中の人間関係に深入りしないようにしている様だ。
クラスの中で数人交流している女子とも、学校の外で会う様な事はしていなかった。
その距離感を保ったまま二学期が終り、冬休みを挟んで、いよいよ修学旅行の日がやってきた。
修学旅行初日、移動の新幹線は宏幸が隣だった。
「あーあ、スキー行きたかったよな~」
窓際の席で宏幸が溜息を吐いた。
「俺は別にいいよ、京都で」
宏幸は割りとアウトドアスポーツが好きな様だが、志月はスポーツ関係にはまったく興味が無い。
今年の修学旅行コースは、京都…奈良…大阪 とてもスタンダードな史跡巡りの旅、四泊五日であった。
最終日の大阪は、今回の旅行のボーナス…ステージ、遊園地である。
密かに、写真を撮るのが趣味の志月としては、宿舎に着いたらウェアに着替えてひたすらスキーばかりの旅行より、こういう内容の方が余程嬉しい。
「あまりにもベタすぎる~! 今時いくら公立だからってこんな基本コース回る高校ねーぞー!」
大げさなアクションで、宏幸が泣き真似をした。
「あはは、何かどっかで聞いたような声が聞こえると思ったら、やっぱり川島君だったんだ」
突然、通路から篠舞が顔を覗かせた。
「ぃよ~す、背尾」
宏幸がダレきった返事をした。
「ねえ、あっちでトランプやろうかって言ってるんだけど、二人も行く?」
「行く行く! 暇だったんだよ! な、志月!」
志月が返事するよりも早く、宏幸は志月の腕を掴んで立ち上がった。
篠舞の席は隣の車両だ。
志月と宏幸は篠舞の後に続き、彼女の座席へと移動した。
そこには既に、男女取り混ぜ五、六人の集団が出来ていた。
「ただいまー。途中で二人ほど拾ってきたよー」
篠舞はそう言って自分の席に戻った。
「ここ、女子列だから~、男子は床ね~」
篠舞の隣の席の女子が言った。
「えー!? ジャンケンで決めよーぜ!」
「そうだよ~、女子オーボー!」
通路にはみ出している男子が抗議の声を上げた。
「まーまー。スカート履きの女の子床に座らせる訳にもいかないだろ。とりあえず女の子三人は座席に座って、残り三つの座席に俺たち五人だから その分だけジャンケンで決めようぜ」
「おい、委員長、女に甘過ぎ!」
委員長とは、当然志月の事だ。
「志月が言いだしっぺだから、お前は床決定!」
「えー!? それはないだろ」
「しょうがないねえ…。いいカッコしちゃったんだから、ここは我慢だねえ」
しみじみと宏幸が言った。
「してないって!」
抗議してみたものの、誰も志月の反論を聞き入れてはくれなかった。
「んじゃ志月抜きで、ジャーンケーン…ポンっ!」
男子のやりとりに、女子たちはケタケタ笑っていた。 篠舞も、笑っていた。
いち早く勝ち抜けた宏幸は、ちゃっかり窓際の席を陣取っている。
志月は仕方なく通路側に座る篠舞の横に腰を下ろした。
席決めを済ませ、早速トランプを始めた。
修学旅行の定番、大貧民だ。