
scene.4
深夜
忍は、手渡された名刺に書かれた名前と、電話番号を、指で辿った。
川島宏幸 東条志月の旧い友達。
彼があまりにも普通の人間だったので、却ってピンと来なかった。
(少し、千里の友達 あの上級生と似てるかな)
人並みの良識と、正義感。
そして、均衡を取る事が出来る人間。
ごく普通の、当たり前の、もしかしたら、一番数の多い種類の人間。
忍にとって、一番縁の遠い人種。
彼の口から告げられたのは、凡そ想像に難くない内容だった
ある程度は、言われる前から感じていた事だった。
(それが、どうして )
これ程に重く圧し掛かるのだろう。
彼を駅まで送った後、忍は志月と一度も言葉を交わしていない。
それは別段、忍が彼を見送った事と関係ある訳ではなかった。
ただ単純に、彼が仕事に没頭し始めたから、そうなっただけなのだ。
丁度、忍の寝台の真下辺りに書斎のデスクがある。
俯せに寝転がる、その身体の真下で彼は今、黙々と仕事をしているのだろう。
(…………)
(…………)
(……………………よ…………)
(…………………………み…てよ…………)
何処へ沈み落ちたのか、気付けばそこは真っ白な闇の中だった。
静寂の霧が立ち込める。
そこには、ただ『何も無い』があった。
突然、また、小さな声が耳を掠めた。
(とうとう、僕…無くなっちゃった)
それは、ほとんど消えかけた子供の声。
(まだ、分からないの?)
忍の足許に転がる、小さな頭。
子供の身体は既に無く、もう、それだけしか残っていなかった。
(僕は)
忍はそれを拾い上げる。
初めて見る、子供の顔。
思わず取り落としそうになる程、忍は驚いた。
(君だよ)
そう言い残して、子供の頭部は崩れ落ちる。
僅か一瞬、見えたそれは、確かに自分の顔だった。
確かに、自分の、顔だった。
これは、夢。
とびきりの悪夢。
夢。
夢。
真実…?