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忍のクラスは2-Aだ。
それは三学期の時点でもう知らされていた。
特別進学クラス 通称「特進」。
学年で席次三十番までの生徒がこのクラスに入る。
そして定期テストの度にクラス替えをする。
忍は一年生の頃から、大体いつも三番から七番くらいの順位をキープしていた。
もともと人と関わるより文字の中に入り込んでしまう方が気楽に思う性質だった為、「お勉強」そのものはそう苦手ではなかった。
特進クラスにおいては、体育や芸術系などの副教科的な選択科目はほとんど削られている為、感性だとかチームワークだとかを問われる事も無い。
ただ、本の中に書かれている事柄を理解し、記憶するだけで良い。
忍にはそれがとても性に合っていて、気楽だった。
席次が全てのこのクラスでは、座席も出席番号順ではなく席次で決まる。
三学期の学年末テストが五番だった忍は、黒板向かって一列目の右から五番目 左から二番目の席に座った。
ところで、城聖の校舎は少し変わった建ち方をしていて、廊下が無い。
階段を挟んで二つの教室が背中合わせに配置されている。
例えば忍のクラス 2-Aで言うと、黒板から見て最後列右端の生徒の後ろに出入り口がある。そして、その扉の向こう、左手に階段 正面に2-Bの教室が配置されているのだ。
この二クラスで1セットの組み合わせで、三階にA~Fまでの普通科六クラス、一階にG~Lの芸術科六クラスが配置されている。補足だが、廊下が無い代わりに教室の左右にベランダがあり、いちいち階段を上り下りしなくても一応同じ階の全ての教室を行き来出来るようには、なっている。
さて、この教室のレイアウトを先刻の席決め方法と照らし合わせて考えると、要するに特進では、席次が下がれば下がる程、出口に近づいていくと言う事になる。
「お、おはよう!」
席に着いた瞬間、後ろの席の生徒から突然話し掛けられた。
振り返ると、気の弱そうな、ぽっちゃり気味の生徒が座っていた。
「 おはよう」
忍はごく普通に挨拶を返した。
相手はとても嬉しそうにはにかんで笑って、更に言葉を繋いだ。
「すごいなぁ、一列目だもんね! 僕なんかどんなに頑張っても二列目が精一杯! それも左の方だもの」
忍の後ろは十一番の生徒の席だ。
忍が返事に詰まっていると、十一番の生徒はもう一言付け加えた。
「僕、坂口慎介! よろしくね、東条君」
「 あ、よろしく」
おそらく一年生の時も同じクラスだったのだろうが、全く印象に無い。
地味で目立たない生徒 坂口慎介はそんな感じだった。
時計の針が、予鈴の鳴る八時二十五分に近づくにつれ、座席は徐々に埋まって行った。
(隣、来ないな…)
何故か忍の右隣は空席のままだった。
何気なくその席に目を遣った瞬間 その座席の主が現れ、どかっと勢いよく腰を下ろした。
ちらりと窺い見ると、四番の席に座った生徒はノンフレームの眼鏡を掛けた、このクラスには珍しく、身体も鍛えていそうな体格の良い少年だった。
「何だ、お前?」
視線に気付いたらしく、彼が忍の方を振り返った。
(あれ…? 何か何処かで見た事がある…様な…)
眼鏡の奥の切れ長な目に、見憶えがあった。
「いや、別に何も」
どうしても思い出せず、忍はその生徒から目線を外した。
その途端、その生徒から右肩を叩かれた。
「なぁお前、名前は?」
睨んでいる様な目付きの悪さで名前を聞かれ、忍は一瞬本気で「校舎裏に呼ばれる!」と思った。
それくらい、この四番は剣呑とした目をしていた。
「え…、東条 忍」
「あ、そ。 俺、不動。転校生なもんで、あんまり勝手が分かんないんだわ。始業式終ったら、案内頼むな」
愛想無い態度でさらりと頼み事をしてきた不動と言う転校生に、忍は唖然とした。
「何か…怖そうなヒトだね…」
後ろの坂口から、ぽそっと囁く様な声が聞こえた。
「あ…うん…」
去年までと較べて、今年はどうも賑やかしい一年になりそうだ。
忍は、諦めとも疲労ともつかない溜息を一つ吐いた。
(それにしても、特進クラスに転校して来ていきなり四番か…、そんな秀才タイプには見えないんだけどなぁ…)
どう控え目に見ても、不動という少年はエリートタイプにもガリ勉タイプにも見えなかった。
どちらかと言うと、千里と仲が良い城野光聖の様に派手目で この学校では異端なタイプに見える。
(あれ? でも髪は黒いし、眼鏡掛けてるし、何でそんな風に思うんだろう…)
見る限り、そんなに派手な要素は無かった。
制服も着崩しておらず、標準を守っている。
けれども、不動はどこか異端の空気を纏っていた。
やがて本鈴が鳴り渡り、去年と同じ担任と副担任の教師が教室に入ってきた。