scene.4 After & sweet Cakes
それから更に30分。
七海の待ち人は未だに現れない。
(随分待たせる相手だよな…)
小沢の目撃情報を得てから今まで、3時間近く七海はその相手をここで待っている。
自分のことではないが、要は少し苛々していた。
いや、自分のことではないから、苛々していたのかもしれない。
(ちょっと待たせ過ぎだろ)
待たされている当の本人は全く気にしていない様子である。
「あれ? ……遠藤先生、何してるんですか?」
突然、背後から聞き覚えのある声が。
( !?)
振り返ると、そこにはやたら背の高い女子が一人。
先月実習に来ていた救命士の卵、朝日ゆかりが立っていた。
「朝日…、さん!?」
何故彼女がここに?
「おっかしいなぁ。遠藤先生、甘いモノ苦手なんじゃなかったですか?」
「へ…??」
甘いモノ???
ますます混乱。
「それに、常盤木先生は? 一緒なんじゃないんですか?」
その時、要の前の椅子に腰掛けていた七海が後ろを振り返った。
「遠藤!? お前、何してんだよ」
「う、あ、えーと…その、ですね」
七海が呆れ返った顔で要の顔を見た。
「え? 常盤木先生が誘ったんじゃないんですか?」
朝日が不思議そうな顔で七海の方を見た。
「いや? 最初に言ったとおり、誘ってないよ」
七海が困った顔で朝日の方を見た。
「えーっ!?」
朝日が不審な顔でこちらを見ている。
「偶然です! 偶然、小沢先生が向かいのファミレスでご飯を…!」
…食べている時に目撃したという情報を得て、ここに。
あまり、つけてきたのと変わらない…。
「……まぁ、どうでもいいけどさぁ」
七海が深々と溜息を吐いた。
その態度に、カチンときた。
「それより、何でそんなコソコソ二人で会ってんですか。別に説明してくれても良いじゃないですか」
こちらだって、先に仔細を聞いていればこんな真似はしない。
「いや…気悪いかと思って。大体、つけてくる方もどうかと思うだろ」
「後からこんな風に知れる方が気悪いですよ! 第一、つけてきてません! 話を聞いて後から来たんです!」
売り言葉に買い言葉。
どう考えても分が悪い。
自分でも逆切れだって分かる。
あわや言い合いになりかけたところを、朝日が思いきり間に割って入った。
「もーっ。こんなとこで大の大人が痴話ゲンカしないでください。私が恥ずかしいです!」
ごもっとも。
「…ごめん」
確かに、みっともない。
「で、二人で何してるんです?」
そもそも、二人ともこんな高級ホテルに、そうそう用事があるように見えないのだが。
七海と朝日は双方顔を見合せて肩を竦めた。
「これだよ」
七海が、さきほど真剣に読み耽っていたチラシを差し出した。
「え? ……ケーキ、バイキング!?」
そう言えば、入口にでかでかと看板があったような。
「ホラ、秋じゃないですか。あっちこっちのホテルやレストランがケーキバイキング開催してるんですよ」
「僕は、栗好きだから、この時期は結構こういうの巡ってるんだよ。毎年。それをこの間朝日とメールで遣り取りしてて 」
「私もバイキング好きですから、一緒に行きましょうってことに」
なるほど。
そういうことか。
しかし。
「それならそれで、誘ってくれても良かったじゃないですかっ」
何で自分だけ仲間外れなのだ。
「お前、甘いモノ駄目じゃん。苦手なものバイキングはきついかなと思って、声掛けなかった」
七海がさらっと言った。
そうだ。
この人はこういう人だった。
「私から誘う訳ないじゃないですか。自分を振ったオトコ誘うのは間が抜けてますよ」
う。
そうでした。
先月、要は朝日を振っているのだ。
「あ…そう、ですか」
反論の余地なく、要は肩を落とした。
「まあ、来ちゃったものは仕方ないけど、お前どうすんの? 整理券は二人分しか取ってないし、例え入れたとしても食べれるモノないだろ」
七海が溜息を吐いた。
「……適当に、メシ食って待ってます」
向かいのファミレスで。
「あ、そう? 悪いな。ホントに」
全然悪くなさそうだ。
「すみません、遠藤先生。あ、常盤木先生、そろそろ開店ですよ」
「あ、ホントだ。これから1時間半だから。 また後でな」
そう言い捨てて、恋人と、その元恋敵はホテルのカフェへと消えていった。
つまり、七海が待っていたのは整理券の配布時刻。
そわそわしてたのは、好物のバイキングだから。
予定に関して何も語らなかったのは、朝日と要の微妙な関係に一応気を遣ったから。
蓋を開けてみれば、何と間の抜けた話か。
例え善意でも、隠し事は勘弁して頂きたい、としみじみ感じつつ、ファミレスのドリンクバーでコーヒーを啜りつつ、二人が出てくるのを待つ要であった。