scene.2

  それで、さっきの話  坂口の事で言いたい事って、何?」
 気掛かりな事は山程有るが、これもその一つ。
 先刻不動が言っていた事。
 坂口について言いたい事とは、何なんだろうか。
 不動が、自分用のグラスと酒を両手に持って、忍の隣に座った。
 簡単な造りのソファのスプリングが軋む。
「あんまり詳しい事は言えねぇけど…、この間の実力考査で消えた連中の二の舞いになりたくなかったら、坂口には関わるな」
 不動の発言は、突拍子も無いものだった。
「意味が分からない。もうちょっと説明しろよ」
 彼等と坂口の関連が全く分からず、忍は首を捻った。
「だから、詳しくは言えねぇけど、って言っただろ!」
 不動の声が怒気をはらんだ。
「納得いかない」
 怖い、と思いつつも忍は引けなかった。
 関わるな、とただ言われても困る。
 納得いかないと、次へ進めない。
 それは、忍の不器用な一面でもあった。
 しかしそれ以上に、坂口とは座席も近く、何より向こうから頻繁に接触してくるのだから。
 それを闇雲に無視しろと言われても、困惑する。
(…でも)
 つい先刻、歓楽街の入り口で別れた坂口の表情を思い出す。
(確かに、さっきの坂口は…怖かった…)
 剣呑とした表情。
 下から突き上げるような目。
 普段教室で見せている懐っこい雰囲気とはまるで違う。
「納得しろ。でないと、俺も庇いきれねぇ…」
 そう言いかけて、不動は「しまった!」という顔をした。
「ちょっと待て。じゃ、今まで俺の事散々振り回してたのは坂口に接触させない為だったのか!?」
 思えばここ二ヶ月程、休憩と言う休憩いつも忍は不動に振り回されてきたのだ。
 それが、坂口と接触させない為だったとは。
「…ま、別にそれだけじゃないけどよ」
 不動が目を逸らして小さく呟いた。
「とにかく、坂口に関わるな。特に、口に入れるものは一切受け取るな。  それぐらいしか言えねぇ…聞いたら、お前が後戻り出来なくなる」
「だから、それってどういう  
 忍が更に追求の言葉を繋ごうとした瞬間だった。
 フローリングの床の上で、不動の携帯が派手な振動音を立てた。
「あ、ワリ、電話」
 片手を前に張り出し、忍の口を遮るような仕草をして、不動は通話ボタンを押した。
「もしもし…。
  何や、自分か。やたらに電話掛けてくんなや。…言うたやん。あ? そんなん聞いてないて  コラ、とぼけるんちゃうわ! そぉや!!」
 目の前で話し始めた不動は完全な関西弁で、上方のお笑い芸人か刑事ドラマのチンピラのような口調になった。
 忍はかなり面喰らいつつ、その会話をじっと見守った。
(意外…。不動、関西の人だったのか)
 彼は、普段ほとんど御国訛りなど出さずに学校では標準語で話していた。
(あれ…? でもそう言えば一回だけ聞いたことあったな)
 中間テストの結果発表の翌日、異様な光景の教室の中で、一言だけ。
(きしょい、って言ったんだよな、あの時…)
 忍がもやもやと考え事をしている前で、不動はひたすら電話の相手と言い合いを続けていた。
「せやから!! 聞いとんのか、コラ! いつもゆうとるやんけ! あほか、今更そないなドジ踏めへんわ!」
(誰と何話してるのか知らないけど  どこのヤクザだよ…)
 手持ち無沙汰で手の中で温もりつつあるグラスの中の液体を口に運ぶ。
 やはり温もってくるとアルコール独特の刺すような刺激が舌を突いた。
「そおや! 分かったら黙って報告待ってろや、オッサン!!」
 そう言って不動は乱暴に携帯の通話を切った。
(オッサンって事は、少なくとも女の子じゃなかったんだ、良かった)
 一瞬、彼女か何かに向かってあの剣幕で怒鳴りつけているのかと、本気で心配をした。
(やりかねない、と思うんだよな…不動の場合)
 普段からぶっきらぼうな上、言葉もやや乱暴だったので、それが関西弁になると、もう堅気の人間の言葉には思えなかった。

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