scene.2

(こんな朝イチから一体誰が?)
 首を捻る。
 わざわざ学校まで訪ねてくる様な人物が思い当たらない。
 そして忍は、二階正面入り口に向かって右の角にある来賓室のドアをノックした。
「入りなさい」
 中から答える声が聞こえた。
「失礼します」
 ドアを開け、一礼して入室する。
 室内には教頭と、見慣れぬ五十代くらいの男性が一人いた。
「東条君だね  座りなさい」
 教頭に促され、忍は来客用ソファに腰掛けた。
「初めまして。授業が始まっているのに申し訳ございませんでしたね」
 その男性は穏やかに微笑んだ。
「いえ…。どちら様でしょうか? ご用件は  
 見憶えの無い人物だった。
「これは失礼致しました。  東条家の顧問弁護士を務めておりまして、鳴沢孝造と申します」
 鳴沢と名乗った男は、改めて一礼した。
「どうも  初めまして」
 弁護士とやらが一体何の用事なのか  忍は怪訝に思ったが、この場では顔には出さなかった。
「せっかく来賓室まで赴いていただいたのですが、もし許可を頂けるようであれば、校外へ出てお話させて頂きたい」
 穏やかだが、有無を言わせない口調で鳴沢が言った。
「はあ……」
 一日くらい別に構わないけれど、と思いつつちらりと教頭の方を見た。
「それでは、すぐに彼の荷物を取って来させましょう」
 教頭は、いつになく迅速な動きで事務室に連絡を入れ、事務員に指示を出した。
「よろしいですかな?」
(よろしいも何も、もう俺の荷物取りに行ってるじゃないか)
 穏やかな態度を取りながら、その実かなり威圧的な雰囲気のこの弁護士とやらを忍は少し苦手に感じた。
 程なく忍の鞄が来賓室に届けられ、その日は結局、一時限目も出席しないままの早退となった。

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