12月25日 ― 融月 ―

scene.1

 忍は、夢の底を漂っていた。
 もう、憶えてもいない懐かしい記憶を辿っていた。

 その瞳に映るのは、金色穂波と、朱鷺色の空。
 まだ、子供の姿をした忍が、草と草の波を縫う様に走っている。
 白いシャツが朱鷺色に染まる。
 志月が、笑って手を振っている。
 笑って、いる。

 遠い記憶。

 現か、夢か、泡沫か  

 そんな区別すら出来ない、あやふやな夢。

(いつだって、あなたに笑っていて欲しかった)
 それだけが望みだった。
 傷付いた顔も、罪悪感に押し潰された顔も、して欲しくない。
(笑って…欲しかった)
 そして、ただ幸せに。

 幸せに。

(たったそれだけの事が、俺達からはどれだけ遠いんだろうね)
 夕日に照らされ、金色に光る草の波が、風に揺られてきらきらひかる。
 泡沫の夢の中、風は何も答えなかった。

 草はただ、風に吹かれて揺れるだけ。

そして、日は落ち、朱鷺色の空は紺色の夜になる。



  それは、長い長い夢の終わり。


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