scene.3

「あ、そうだ! 今日は北尾さんちに泊めてくれる? 家には明日連絡するよ」
 北尾の腕を引っ張り、入り口の自転車の方へ向かう。
「泊まるのは構わないけど、 家の人心配してるし連絡だけでも入れといた方がよくないか?」
 少し困った顔で、北尾が答えた。
「連絡なんか入れたら『今すぐ帰ってこい!』って言われちゃうじゃん! 今日はゆっくり北尾さんと話したいんだ。これまでの分もね」
 その時の千里は、とても企み顔をしていた。
「いや、それは俺もそうだけど  
 尚も北尾が躊躇っている。
「言い訳も用意しなきゃいけないしさ~。だって忍に迷惑かかるでしょ? そのまんま話しちゃうと。一緒に考えてよ、言い訳」
 自分のペースを取り戻した千里は、余裕いっぱいで悪戯っぽく笑った。
「しょうがないな」
 その顔を見た北尾も、ようやく苦笑しつつ了承した。
「じゃぁ決まりー!!
 北尾さん、ロッカク持ってきた?」
 自転車の後輪部分に簡単に取り付けられる踏み台の様な棒の事である。
「あ? ああ、一応な」
 北尾がジャケットのポケットから銀色の棒を二本取り出す。
「サンキュ」
 まだ手渡されてもいないそれを北尾の手から取り、素早く後輪に装着した。
「おいおいおいっ! 二人乗りは怖いって!! お前落っことしたら今度こそ俺は表歩けなくなる! 今タクシー呼ぶからちょっと待て!」
 自転車のすぐ隣の電話ボックスを指差して、北尾が止めた。
「ええー!? 平気だよーっ!!」
 千里は頬を膨らませた。
「あのな、自己責任の話をするなら責任のある行動を取れよ? 二人乗りは普通でも危ないの! こんな大荷物持って夜中にしたらもっと危ないの!!」
 千里は自分の足許に並んだ荷物を見下ろした。
 制服一式入った紙袋  通学鞄  ヴァイオリンケース  確かに。
「しょーがないなー…。今回は諦めるかぁ。北尾さんの後ろ乗んの好きなんだけどなー。視界が高いしー、速いしー」
 不承不承の態で千里は自転車からロッカクを取り外した。
 北尾が胸を撫で下ろす。
 そして、千里の手からロッカクを取り、再びポケットに仕舞った。
 十分程待っていると、ようやくタクシーが到着した。
 タクシーの運転手は待たせた事を詫び、その理由として今日がクリスマスイブである事を挙げた。
 運転手曰く、浮かれたカップルが夜の街を埋め尽くし、ここ数か月分の稼ぎを散財している真っ最中らしい。
「じゃあ俺ん家にはもう連絡してあるから、先に上がってろよ。  運転手さん、お願いします」
 北尾に送り出され、タクシーは発進した。
 持ってきた自転車に跨る北尾がルームミラーに映っている。

  優しい、優しい、年上の友達。

 北尾が先刻言った一言が千里はとても嬉しかった。

  義務と責任感では一緒にいられない。

 一方通行ではなかった気持ちがとても嬉しい。
 お互いが必要であった事が嬉しい。


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