12月18日 ― 千里 ―

scene.1

(どうしてだろう…)
(なぜ、こんな目にあわなきゃならないんだろう…)
 暗い闇の底で千里は考えた。
(いち、に…今日で三日…?)
 腕時計に付いているカレンダー機能で、かろうじて日にちは確認できた。
 しかし両手を戒められている為、時間を見るのも一苦労だ。
 この部屋に置かれていた簡易寝台にごろんと寝転がり、千里は周囲を見渡した。
 さして広くもない部屋は、この寝台があるだけで半分埋まってしまっていた。
 残りのスペースには、やたら古めかしい木の机と椅子があるだけ。
 漆喰の壁に板張りの床は、建物そのものも古めかしい事を物語っていた。
(コンクリじゃないんだもんな)
 おそらくここは地下室だ。
 その証拠に窓が無い。
 扉の真向かいの壁の中央  天井からすぐ下に通風孔が一つ在り、それが外界との唯一の接点だった。
 室内の照明は、天井から吊り下がっている頼りない裸電球ただ一つ。
 机の上にもオイルランプが置かれていたが、オイルも着火器具の類もない以上、ただのインテリアでしかない。
(…それにしても、ここ  どういう目的の部屋なんだろ?)
 この部屋には扉が二つある。
 一つは出入口で、これは外側からしか鍵の開閉が出来ない様になっている。
 もう一つは、通風孔に向かって左側の壁の最奥にある浴室の戸だ。
 それはどう見ても後から取り付けられたもので、その辺のマンションなどに入っているのと同じ様な普通のユニットバスだった。
 この古めかしい建物には何とも不似合いでちぐはぐな印象だ。
(まさか、昔使ってた地下牢とか言わないよねぇ…?)
 幾ら何でも今時そんなものを残している家屋がこの現代の日本に存在するのだろうか。
(第一、地下牢とか言ってユニッ卜バスはないか)
 しかしそのユニットバスを除けば、千里の日常から考えてこの部屋は全くの異世界だ。
 まるでお伽話の絵本の挿絵の様に非現実的で、部屋は昼間でも薄暗く、音もほとんど聴こえない。
(いくらオレでも、これは気が滅入るなぁ…)
 千里は基本的には相当楽天的な性質だ。
 しかしその千里も、この環境にはさすがにかなり参っていた。
 狭い寝台の上で、出来得る限り身体を伸ばす。
 戒められた両腕はどうにもならないが、せめて背筋を伸ばし、四肢を緩ませた。
「はぁ…」
(ホントに何考えてるんだろ…あいつ)
 千里は、目を閉じて現在に至るまでの一連の出来事を思い返す事にした。


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