scene.1 寄り道

 実習生騒動から1ヶ月。
 夏の終わりの風物詩、台風も二つほど通過した。
 吹く風も涼しげになった、9月の終わり頃。

 最近、七海の様子がおかしい。
「七海さん、七海さん、明日ですけど、部屋寄ってっていいですか?」
 ただいま二人揃って当直中。
 更に、その休憩中である。
「明日? ……別にいいけど、僕はちょっと寄り道して帰るから、来るんだったら勝手に部屋に入ってて」
「ええー!? またですかぁ!?」
 要は情けない声を上げた。
 実は、このところ、ずっとこの調子なのである。
 素直に退勤出来る当直明け  即ち、当直明け日直ではない日、要は何度となく七海に声を掛けるのだが、何回誘っても同じ答えなのだ。
 最初の数回は素直に従って、先に彼の部屋へ行って待っていた。
 そうすると、七海は大体午後2時頃には戻ってくるのだ。
 彼自身は別段何処へ行ったとか、何をしてたとか、自分からは話さない。
 そう言えば、普段は切りっぱなしで放置されている携帯を随分マメにチェックしている。
 こうして当直などしていると、定期的に外へ出ては、メールをぷちぷちと送っている姿も見かける。
 これは一体どうした事だろうか。
 しかし、要としても、相手が言わないものをいちいち根掘り葉掘り訊くのは気が進まない。
「いや…毎回それじゃやっぱ悪いから、明日はナシにしようか」
 困り顔で七海が言った。
「いえっ、そこまで悪くないです! 待ってます!」
 それはもっと困る。
 要は慌てて七海の提案を打ち消した。
「…そうか? 何か、悪いな」
 申し訳なさそうにしつつも、七海はその用事をキャンセルするつもりもなく、また事情を説明してくれる気もないらしい。

(さすがにちょっと気になるんだけどなぁ…)

 それでもやはり質すところまではいかない要であった。

 折しも9月。
 10月も間近となれば、日中の気温も程々に下がり、過ごしやすくなっている。
 そして、季節は秋。
 行楽にグルメにとイベントてんこもりのシーズンだ。
 短時間でこなせそうなプランも幾つか目星をつけていたのだが、相手が乗ってくれないのではそれもまるで無駄である。

(ホントに、何してんだろう)

 すっきりしない日が続く要である。


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+++ 目次 +++ 

    本編
  1. 嘘の周波数
  2. Ancient times
    夏祭り SS
  3. 抗体反応
    After&sweet cakes SS
    scene.1
    scene.2
    scene.3
    scene.4
  4. 依存症 [連載中]
    番外編
  1. 真実の位相
  2. 二重螺旋
    企画短編
  1. 50000Hit記念
    Stalemate!? SS

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