scene.3 お参り道

 不意に、後ろの方で歓声が上がった。
 神輿が、ついに鳥居の傍まで来た様だ。

 甲高い祭囃子が聴こえてくる。

 ソイヤ、ソイヤと、囃し立てる若衆の声。

 腹の底に響く、和太鼓の音。

 そして  肩を並べて歩く、七海の、浴衣姿。
 いつも見ている白衣とは全然違っていて、妙に胸を騒がせた。
 鼓動が、太鼓の音と同じくらい、強く、鳴っていた。
 その音が、七海に聞こえやしないかと、更に心臓の音は高くなる。
「あ、こっちですよ」
 誤魔化すように、声が大きくなった。
 要は、脇道を指し示し、七海の腕を引いた。
「え? 参道はこっちだろ?」
 怪訝な顔で、七海が後ろを振り返る。
「少し離れてますが、ここ、穴場なんです」
 要は、参道の一本裏に平行に伸びる石段に、七海を連れていった。
 地元の、限られた人間しか知らない脇道の石段。
 神社の中にはメインの本宮だけではなく、幾つかの小さなお社が祭られている。
 その石段と言うのは、小さなお稲荷さんへ続くお参り道。
「へえ。本当だ。ちょっと遠いけど、参道より目線が高いから、よく見える」
 七海が引き込まれるような顔で、眼下に伸びる宮入の行列を見詰めている。
 子供みたいな顔だ。
(少しくらいは、息抜きになってるかな?)

 神輿の見せ場は参道の入り口、鳥居の前。
 続けざまに現れる各町の神輿。
 早く入れ、いやまだだ。
 這い回し。
 祝い締め。
 相乗効果でますます高まる、祭り囃子に若衆の声。
 そして、怒声のごとき見物客の歓声。

「遠藤、これ何基入ってくるんだ!?」
 つられて気が昂っているのか、七海の頬が紅潮している。
(体力使って、余計疲れたりして…)
 などと考えてしまい、思わず要は苦笑した。
「五町の神輿と、布団太鼓で六基  ですね。
 でも、もう半分くらいは宮入した後なんです。
 今競り合ってるのは、ライバルって言いますか…、毎年一番喧嘩する神輿同士なんですよ。
 一番もりあがりますから、人気も高いです」
「"火事と祭りは江戸の華?"」
「それと、喧嘩ですかねぇ」
「なるほど」
 そんな遣り取りをしているうちに、終ぞ神輿は参道に入った。
 お囃子の調子が変わる。

 しばらく二人で宮入の様子を眺めた後、二人は元の参道へ戻った。


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