scene.2 昭和レトロ
普段遠出をしないので、二人で電車に乗って移動するというのも、妙に新鮮に感じた。
在来線に揺られて小一時間。
古臭い佇まいの我が家に辿り着いた。
そして、手早く身支度を整え、近所の神社へ向かう。
「なんか、お前の家って、すごいな…」
狐に抓まれたような顔で七海が言った。
「すんません。すげぇボロ屋でしょ」
「えっ、いや、そうじゃなくて…。まさか、浴衣まで出てくるとは思わなかったから」
そう。
二人は、浴衣に着替えているのだ。
要の家では、毎年夏前に浴衣を作る習慣がある。
そう捨てるものでもないので、家に浴衣は何着もストックされている。
とは言っても、七海に要の浴衣はサイズが合わない。
姉の夫 義兄の方が七海と背格好が近いので、彼の浴衣を借りた。
「でも、これじゃお揃いあつらえたみたいで、気恥ずかしいな」
彼は、そう言って要の浴衣と自分のそれを見比べた。
「…みたい、ではなくて、本当にお揃いなんです。うち、姉の方針で、男3人は色違いで作るんですよ」
「マジで!? 冗談抜きでサザエさん一家だな、お前んち。あの見事な平屋の日本家屋と言い…」
「よく言われます」
「まあ、でも、お前が『昭和の遺物』って連呼してた理由は、よく分かったけど。でも、良いんじゃないか?
ああいう雰囲気ってさ、落ち着くよな。
僕の実家も、…長野なんだけど、やっぱりあんな感じだから、懐かしい」
「そう言って貰えると、嬉しいですけどね」
七海の普段生活している部屋を思うと、恥じ入るばかりの古家だ。
だからと言う訳でもないが、満更でもない口調で七海がそう言ってくれたのは、やはり嬉しかった。
「それにしても、浴衣に袖を通したのなんて何年ぶりかな。小学校くらいまでしか記憶にないなぁ。やっぱりさぁ、気分出るよな。『祭りだ』って感じでさ」
子供がはしゃぐのを堪えてる様な顔で、七海が浴衣の袖を掴んで、まじまじと見詰めている。
良かった。
ヒットのようだ。
要は、まずまずの滑り出しに、ホッと胸を撫で下ろした。
「あっ、ちょっと急ぎましょう! もう神輿が宮入が始まってるんです」
神輿 神社によっては、地車だったり山車だったり、形は様々だが その宮入は、やはり祭り一番の華であろう。
即ち、夏祭りのクライマックスだ。
要は、歩く足を少し速めた。
宮入に時間になると、小さな神社の夏祭りとはいえ、随分な人混みになる。
だから、はぐれないように七海の手を握った。
さすがに地元。
途中、何度も友人や知人に声を掛けられた。
その度に七海が手を離そうとしたが、離さなかった。
その手を、強く、握りしめていた。