scene.16 サカナ

 緩やかに脇腹を撫で下ろし、脚から内腿へ指を移した。
 隙間に触れた瞬間、七海の身体に力が入る。
 静かに、されど呼吸は徐々に早く、荒くなってゆく。

 切なげな吐息を聞きながら、尚、要の指は、弱い場所を探っていた。

「は…な、せ…っ」

 要の手から逃れようと、七海が大きく身体を捻った。
 その足が、派手に湯を跳ね上げる。

「いやです」

 上気した肌は桜色に染まり、透明なぬるま湯の中で、柔らかな肢体が三日月のようにしなっている。
 七海の口から吐き出される息が熱い。

 逃れようとする身体を、強い力で捉まえる。

「バカ…ッ」

 悲鳴のような声。
 彼は、身体の向きを変えて要の首にしがみついてきた。

「いや、です。…もっと、ちゃんと、触らせて下さい」

 重なり合った胸と胸は、乾いた肌とは別の触感。
 皮膚と皮膚を吸い寄せる水分が、密着している感覚をより増幅させている。 
 背中に腕を回して、真っ直ぐ、指先で、撫で下ろす。

「……っ」
 反射的に背を反らせて、七海が声を噛み殺した。
 しがみつく手が、要の首に爪を立てる。
 首筋が、ぴり…と痛んだ。
「ダメ。…ちゃんと、声も、下さい」

 声も。
 肌も。
 髪も。
 涙も。

 全部。

「や、だ…っ」
 大きく首を横に振る。
 その頬が朱色に染まっているのは、何も湯の温度ばかりではないだろう。

 逃れようともがく身体を強引に引き寄せ、反らせた背に出来る腰の窪みを指の腹で撫でた。

 その場所が、好きだ。
 その微かな窪みに触れる度、何か、とてつもなく甘いものがそこに溜まっていく気がするのだ。

 だから。

 何度も。
 何度も。
 繰り返す。

 その 何かが、欲しくて。

    っ」

 とうとう、七海の口から抑え切れない声が洩れた。
 高く、掠れた、微かな声。
 要の耳の奥で、甘く響く、特別な、音。

 その音を確かめて、次は音源を塞ぐ。
 深く、口接ける。

 今度は 全ての言葉を 奪って。

 そして。
 緩やかに。
 綻んでゆく身体。


 腕の中で、魚のように柔らかくしなる肢体。


 今、
 この瞬間。
 それ以外に 欲しいものは 何も、無かった。


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