scene.7 最悪の朝

 大して疲れの取れないまま、次の朝を迎えた。
 今日は、地獄の日直通し当直だ。
(うー……。しんどいな)
 だるい身体を無理やり布団から引き剥がし、要は身支度を始めた。
 七海のマンションと違って、自宅は病院から遠い。
 いつもより1時間以上早い朝だ。
(ミスだけはしないように気をつけよう…)
 久々に通勤電車に乗り、ラッシュを味わった。
 乗車率120%を誇る電車は、クーラー全開にも係わらずサウナ状態だった。
 通勤のサラリーマンや、通学の学生にぎゅうぎゅうと押し潰され、朝っぱらから疲れが3倍増だ。
(ここんとこ、ラクしてたからなぁ…)
 地元駅から30分ほど電車に揺られ、1度乗換え、さらに15分。
 やっと桜川の駅前だ。
 たかが1時間に満たない通勤時間が長く感じるほど、このところ楽をしていた。
 七海が、自分の私生活が侵されているのを容認してくれているから。
 勤務が明けたら、いつも彼の部屋にいたから。
 その、今や通い慣れたのマンションを横目に、要は職場への道のりを進んだ。
「おはようございます」
 医局のドアを開けると、指定席の長椅子に医局長が、顔の上に週刊誌をのっけて寝そべっている。
「医局長、朝っぱらからその姿はあまりにも……実習生もいるんですから、ちょっと風紀に気を付けて下さいよ」
 呆れ顔で要は顔の上の雑誌を取り上げた。
「おぅ、遠藤。おはよーサン。お前、そんな口うるさいことばっか言ってると、フラれるぞ?」
(こんのオヤジは……)
「フラれません! 医局長こそ奥さんに愛想尽かされますよ!?」
 取り上げた雑誌を握り潰しつつ、攻勢に出る。
 と、その時。
「きゃあっ!」
 要の背後で甲高い悲鳴が上がった。
「…遠藤、若い女の子の前で、その雑誌はちょっと…」
 続いて、困惑しきった七海の声が聞こえた。
 振り返ると、困った顔の七海と、怒り顔の朝日が立っていた。
「え? ええ!?」
 要が握り潰していたのは男性向け大衆紙という奴で、巻頭に女性のヌードやら、中ごろに袋とじやら付いている雑誌である。
「あーあ、ダメだなぁ遠藤クン。そうだよなぁ、うら若き乙女の前で広げるような雑誌じゃないよなぁ」
 揶揄い口調で医局長が囃したてた。
「え、あ、ちょ…っ、医局長!」
 慌てて雑誌を放り出す。
「何だ? 俺は何も知らないぞー?」
 医局長は起き上がり、そのままロッカールームへ行ってしまった。
 残されたのは、要と、朝日と、七海の3人だけ。
「……最低……」
 汚いものでも見るような顔で、朝日が医局を出て行ってしまった。
「遠藤、連れ戻してくるから、その間にその本始末しとけよ!」
 そう言い残して、七海も出て行ってしまった。
 最悪の朝である。


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