scene.6 真夏日

 要の部屋は、診療所の奥の自宅スペースの、最奥にある。
 1ヶ月ぶりに足を踏み入れた部屋は、少し湿っぽくなっていた。
 木造の平屋は、天井が焼けるとまるでサウナのような熱気だ。
「…ったく、長いこと閉め切ってるとこれだから」
 やれやれの態で、要は窓を開けた。
 さほど爽やかとは言い難い気候だが、それでも僅かでも風が吹き込んでくれれば、それだけで大分マシだ。
 適当なTシャツとハーフパンツに着替え、要はベッドに転がった。
 姉に指された通り、確かに苛々している。
 遣り場の無いモヤモヤした気持ちが、胸の中で燻ぶっている。

"実習生とアヤシイってところかしら?"

 そんな訳は無い  はずだ。
 しかし、どうも七海は朝日に寛容過ぎる気がする。
 いくら何でも、あんな不用意に自宅に通したりするものだろうか。
 一瞬考えてから、慌てて首を横に振った。
(…何を考えてんだ、俺)
 七海は、研修医や学生に鬼軍曹だなんだと言われているが、熱心な相手には親身になってくれる。
 そういう教官なのだ。
 だから、熱心な朝日にも親身になってやっているだけだ。
 ただ、もしかしたら朝日の方は  
(七海さんを好き…なのかもしれない)
 七海は、ERの看護師には敬遠されているが、他科の看護師には結構人気がある。
 彼が、看護師や技師など、医師以外のコ…メディカルと呼ばれるスタッフに対して礼儀を欠かさないからだ。

 要は、彼女らとは立っている土俵が最初から違う。
 根本的に求めるものが違っている。
 彼女たちは七海を男性として求めるだろうが、要は七海を、結果的にだが、女性の様に扱っている。

 七海は、それを黙って自分を受け入れてくれる。
 だが、いつまでもそのままで良いのだろうか。
 許されるままに甘えていて、良いのだろうか。
(もし…本当に、朝日が七海さんを好きだったら)
 今朝の彼女の恐ろしい剣幕を思い出す。
(考えたら、実習的な内容なら別に俺がいても良かったんじゃないか?)
 別に、医学的な話をするだけなら、三人でも良かったのでは。

 何故、七海は要を帰したのだろう。
 何故、彼女と話をするのに、二人きりでなければならなかったのだろう。

 そんな事を、ぐだぐだと考えながら寝たせいだろうか。
 浅い眠りの中で、要はあらゆる色のペンキをぶちまけたような夢にうなされてしまった。


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